私が所持しているLEICAの球面ズミルックス 35mmは、所謂第二世代( Summilux 35mm f1.4 2nd ver.)で、入手した際にはLeica純正の被せ式のレンズフード(12504)が付いていた。日本のメーカーの最新レンズでは見たことがないようなちょっと特殊なフードで、ネジ山がないシリーズ7のフィルターをフードの中間部に挟み込むように仕込む。
このレンズが作られたのは、デジタルカメラが開発されるよりはるか昔の1960年台。このレンズ専用の特殊なフードが作られたのは、フィルムカメラの時代だったので、リバーサルフィルムの色温度調整用のフィルターやモノクロフィルムで撮る時のコントラスト調整用の黄、橙、赤のフィルター、長秒時の撮影や晴れの日でも絞り開放付近で撮れるようにするNDフィルターを装填することを想定して作られたフードなのかもしれない(あくまで私の憶測)。
何れにしても、モノクロフィルムを今だに使い続けていて、色々なフィルターをレンズに付け替えながら撮影するのが好きな私にとって、一番便利なのは、UVフィルターを付けている上に更にPLフィルターや橙、黄などのコントラスト調整用のフィルターを付けてとること。このために一番楽なのは、UVフィルターはレンズに装着したまま、フードの先端でフィルターを取っ替え引っ替えして撮影するスタイル。一眼レフ用のレンズの場合だいたいこのやり方が出来るのだけど、球面ズミルックス(第二世代)は、これが出来ない。
そこで考えたのが、球面ズミルックス(第二世代)のオリジナルフード(12504)のレンズ取り付け側はオリジナルのまま残して、ライカ純正のシリーズ7のUVフィルターを従来通り仕込めるようにして、その土台に被せるようにねじ込むスリット付きのフード本体部は自作して、フード先端に各種フィルターを装着出来るネジ山を切って仕上げたいと考えた。
そんな都合のよいフードが実際に出来たらよいなぁ〜と妄想し始めたのは、コロナ感染拡大前の2019年。それから、ご近所の金属加工屋さんに問い合わせたり、ネットで見つけた「他で断られた難しい加工もウチなら対応できるかもしれないのでお気軽にお問い合わせください」という謳い文句を掲げていた加工屋さんに相談してみたりしていたのだが、やはり一点モノの加工仕事は、見積額が個人の趣味として楽しむ範囲の額を、どこも超えてしてしまっていた。
それでも、なんとかこの額なら払えるという見積額を出してくれる加工屋さんが出てきた。しかし、これでようやく加工をお願い出来ると思った矢先、作って欲しいフード形状の先端部のネジ山はカメラ撮影用の各種フィルターを装着するのが目的だと告げると、態度が急変した。光学部品は非常に精密なレベルの寸法精度が求められるので、ウチでは対応不可だというのだ。いやいや素人の写真好きが趣味の撮影で使うためのものだから対応頂ける範囲の寸法精度で構いませんと言っても、頑なに受けられないというお返事….。
そんなこんなで、あ〜ぁやっぱり素人が望むことを、そんなに簡単に具現化してくれる加工屋さんなんてないかと、もう殆ど諦めかけた。気が付けば、こういうレンズフードを作りたいと妄想し始めてから2年以上経っていた。
しかし、それでもなんとかしたいと思い続けていると、普段目にしているものからなんとかして打開策となるヒントが見つからないかと、目を凝らすようになった。そしてある時遂に、
「うん?もしかしてこれを使えば、ライカ純正フードの土台部分だけ使ってずっと作りたいと思っていた形状で自作出来るかもしれない」
という突破口を見つけた。そして、その結果として実際に自作して出来上がったSummilux 35mm f1.4 (第二世代)用の各種フィルター装着用フードがこちら↓
ここまで執念深くどうしてもこの古いレンズに各種フィルターを付けられるようにしたいと考えたのには理由が2つある。
一つは、シリーズ7のフィルターが装填される部位は固定式。クルクル回す必要があるPLフィルターはここに装填しても使えない。従って、ズミルックス第二世代用のオリジナルのフード先端部でPLフィルターを手軽に着け外し出来るようにしたらライカを使う楽しみが広がるのになぁと思った次第。
ライカ社からは、この時代のレンズで使えるユニバーサルタイプの純正のPLフィルターが発売されている。しかし、この場合は当然使えるのはPLフィルターだけ。NDフィルターをはじめその他フィルター類をフード先端部には装着出来ない。やはり、なんとかネットやカメラ量販店で手軽に購入出来る市販の各種フィルター類を使えるようにしたいと思い続けていた。
もう一つの理由は、デジタルのM型ライカには、モノクロ専用機が存在することだ。通常デジタルカメラには、撮影した画像をカラー画像として記録するためのカラーフィルターが撮像素子の表面に配されている。そのカラーフィルターがLeicaの各モノクロ専用機には付いていない。そのことにより、ライカのモノクロ専用機の場合は、フィルムカメラにモノクロフィルムを装填して撮影する際のフィルターワークがそのまま適用出来るのだ。今回のオリジナルフードを作成しようと思い立った当時は、未だライカのモノクロ専用機は所持していなかったが、何れ手に入れたいと思っていたので、フード先端部で手軽に橙や黄フィルターを付け替えられるようにしてやれば、従来から使い続けているLeica M3+ILFORD Delta400 Pro での撮影にも、何れ購入するモノクロ専用機での撮影で各種フィルターを活かした撮影時に重宝するなと考えていた。
今回ライカ純正のレンズフード(12504)の土台部分を生かしたフィルターワーク用の自作フードは、今年に入って間もなくほぼ完成していた。そして遂に、人生初のデジタルライカはこれにしようと決めていたLeica M11 Monochromのリリースが発表になって即予約。今私の手元にその実物があることが本当に嬉しい。
念願だったライカのモノクロ専用機が手に入って、これからM11 MonochromとM3で、フィルムもデジタルもモノクロ三昧だと思って、作りかけのこのフードを仕上げてしまあおうと思っていた矢先、右目が網膜裂孔と硝子体出血を併発。出張先のホテルで、夜中にトイレに行きたくなって目が覚めたら、右目の視界に墨汁を水面に垂らしたようにユラユラ動く物体が沢山浮かんでいた。すごく驚いて、直ぐにググったら、右目の網膜に問題が発生して、そこから水晶体に向けて出血しているかもしれないという可能性に行き当たった。出張を中止して、翌朝の始発の新幹線に飛びのって京都に戻って掛かりつけの眼科で直ぐに診察してもらったら、先生がその場で即緊急手術決定。おかげで最悪の事態は回避。
生きる糧である仕事は治療中も続けていたが、術後も右目の水晶体は澱んだままだったので、しばらく週末は何もする気になれず、自作したフードも最終仕上げ直前で放置していた。
そこへ、Leica Store Kyotoから朗報。次の記事で詳細を記すつもりだが、一年半前にオーダーしたレンズがようやくドイツから届いたとの連絡が来たのだ。我ながら全くげんきんなものだ。その知らせを聞いた途端に、新しいレンズの到着に合わせて、第二世代用の自作フードも仕上げて、それぞれ同種のフィルターを装着した時に撮った写真がどのように違ってくるか比較してみたくなり、早く仕上げてしまおうと、↓パーマセルテープで養生して、自作フードの内側に艶消しブラックの塗装を施して最終仕上げを2日前にやり切った。
自作したフード先端部には、フィルター径62mmのネジ山を切った。この径であれば、M3やM11 Monochromの光学ファインダーで覗いたときにケラレはあるものの、純正フードと同じようなスリットを入れてあるので、十分に構図やアングルを確認しながらの撮影が可能だ。
只今京都は、祇園祭の真っ最中。宵山で撮り初めと行こう。これから自作したフードをSummilux 35mm 2nd. (第2世代)に取り付けて、Leica M3とLeica M11 Monochromと合わせて、色々なフィルターをとっかえひっかえしながら撮影を楽しみたいと思う。
「Cameraholics Vol.3 鮮やかなモノクローム」の78〜81ページでは、本記事で記したLeicaのモノクロ専用機での撮影時に、モノクロフィルム用の各種レンズフィルターを装着したら実際の画像にどのような効果が生まれるのか作例を示しながら解説されています。ライカのモノクロ専用機だけではなく、K-3 Mark III Monochromeでも同様の効果が期待出来ます。