森谷修さんの「デジタルで極める完全なるモノクローム」

 もう既にモノクロの写真を撮って楽しんでいる皆さんがご覧になったら、更に撮影や作品作りの幅が広がると思う。今までカラーの写真しか撮ってこなかったし、モノクロに拘った作品作りはしたことがないけど、「デジタルで極める完全なるモノクローム」を見て、ちょっと試してみたいと思った。そんな感想が聞こえてきそうな素敵な本が、ホビージャパンMOOKのCameraholics Labシリーズから発売された。

デジタルで極める完全なるモノクローム
「デジタルで極める完全なるモノクローム」
Cameraholics Lab
ホビージャパンMOOK

著者:森谷修さん

 森谷修さんと言えば、私の場合はLeicaやHasselbladのフィルムカメラで撮られて昔ながらのWet Processで作り込まれたバライタ紙に焼かれた作品の数々がまず思い浮かぶ.....今までだったら。

 現実、バライタ紙に焼かれた森谷さんの渾身の作ともいえる一枚が私の手元にあり、仕事がない週末に眺めると本当にリラックスした気持ちになって癒され続けている。私のようなただただ写真を撮ることや写真を鑑賞するのが好きというだけの素人が、このような素晴らしい作品を所持していてよいのかと思いつつも、この作品が自分の家にあって、いつでも好きな時に観られるというのは本当に嬉しいの一言。

 私が2015年に千葉県の船橋市から京都市下京区に引っ越して暫くしたころ(現在は東山区在住)、東京に出張になったタイミングで、森谷さんが祐天寺のPaper Poolに初めて連れて行って下さった。その時、森谷さんが今後の作品作りの構想と方向性をちょっとだけ教えて下さった。デジタルでも”本物”のモノクロ作品は創れるという、静かな口調の中に、強い意気込み感じた。それだけに本日発売の「デジタルで極める完全なるモノクローム」の内容を拝観・拝読して本当に心の底から嬉しくなり、感動させられた。あの時森谷さんが仰っていたことの多くが、この本に沢山盛り込まれているし、この先森谷さんが更に追及してどのようなモノクロの作品を世に送り出されていくのか、今からとても楽しみである。それにしても…..、森谷さんは本当にモノクロが好きなんだなぁ〜と改めて思いつつ、私のような単なる写真好きの素人とも、ずっと交流を続けて下さっているそのお人柄と気さくさにとても感謝している(LeicaやHasselblad用のレンズの件も、いつも色々アドバイス頂き有難うございます)。

手漉き和紙のプラチナ・モノクローム

 Paper Poolでお話を聞いたとき、「一千年先まで残すための作品作りをこれからやるんだ」と仰っておられたその答えが本日発売の一冊の冒頭を飾っている。最新デジタル技術と、森谷さんが長年拘ってこられているWet Processとの融合と言える作品群。私は、これらの作品が熊野本宮大社に奉納されることを記念して行われた展示会を熊野本宮大社まで観に行かせて頂いたのだが、もう圧巻の一言。そして感動して何時間もずっと展示会場で鑑賞し続け、とても贅沢なひと時を堪能させて頂いた。

ポートレート

 これまで森谷さんの著作でも拝見しているし、10年以上前になるが、森谷さんのWSに参加させて頂いた時に、俳優さん、モデルさんのポートレート作品を見せて頂いている。個人的には、ASPHではないレンズで捉えられた被写体の人肌の軟らかさを生き生きと引き出す森谷さんの作品が好き。「デジタルで極める完全なるモノクローム」ではデジタル機での作品を拝見出来る。やはり基本は「光」と「影」。これらをどう捉えて、これらを繋ぐトーンのバランス.......色々な形でライティングを工夫したり、逆に制約条件がある中で、その場の光を上手く利用されたりで、凝り性の森谷さんが色々あの手この手で試行錯誤されている様子が思い浮かぶ。

 私が森谷さんのWSで教えて頂いたのは、露出計が付いていないフィルムカメラでの基本的な撮影方法とフィルム現像、そしてバライタ紙への焼き方だった。残念ながら、モノクロ・ポートレート撮影のセッションには参加したくても、仕事の都合で京都に引っ越してしまったので、それっきり。京都に来てから、カメラメーカー主催またはカメラ店主催のポートレート撮影の講座などに単発で参加したことはあるが、長期間突っ込んで撮影をトライしたことはない。私はもっぱら風景を撮影することが多いが、そこに人を入れて撮るのはとても好きなので、森谷さんがいつもポートレート撮影の時の「光」に関して仰っておられてきていることは、これからも参考にさせて頂こうと思う。まぁ〜、どうしても行き詰まることが出てきたら、また森谷さんに連絡しよう!

ダイナミックレンジ

 2015年に京都に引っ越した後も、森谷さんとはTwitterのDMを電話代わりよろしくお互いの近況を伝え合ったり、カメラやレンズのことでアドバイスを頂いたりしている。もう何年か前のお話になるので、森谷さんは、「えッ、俺そんな話をしたっけ?」と言うかもしれないが、最近のデジタルカメラのダイナミックレンジのことをチラッと仰っていた。今回の本の中の28ページや36ページの写真を観て、

 「ああ〜、あの時森谷さんが言っていたのはコレかぁ〜」

という感じ。これは確かに私も実感する。10年前に使っていたデジタル一眼レフのAPS-C機なら確実に白トビしてしまったり、暗部が完全に潰れるという場面で、今使って入るNikon Z7IIは確実に進化していると感じる。かといって、それはフィルム撮影とそれによる作品作りを否定するものではないと私は理解している。むしろ、今回の森谷さんの著作を拝見・拝観して、モノクロフィルムでの撮影やバライタ紙への焼き込みをやってみたいと思った人も結構いるのではないかと思うし、私も改めて銀塩の良さを再認識させられた内の一人である。

Leica Monochrome

 今回の森谷さんの著作には、LeicaMのモノクロ専用機のことが書かれているし、LeicaMシリーズで撮られた作品も沢山観られる。LeicaMのアナログ機で撮ってもデジタル機で撮っても、森谷さんの作品には独特の軟らかさと奥行き感を感じる。そしてなにより美しいトーン。

 嬉しいことに、Leicaで撮った京都の写真が多い。31ページの写真の場合「これはどこ?」という感じだが、私は見た瞬間に「アッ、これはアソコだな」とすぐに分かった。

錦天満宮
錦天満宮(京都)

 私の場合、Leicaに関しては2011年からずっとLeica M3だけを使ってきているのだけど、いよいよ私にとっては人生初となるLeicaMのデジタル機を買う時が近づいてきた。今年の2月にLeica APO-Summicron-M 35mm f/2 ASPHをLeica Store Kyotoにオーダーした。なにせ人気のレンズ。そしてLeicaといえば手作りに近いモノづくり。時間は掛って当然というころに、世界中のLeicaファンのプロやアマチュアがオーダーしていることは分かっている。きっと私の手元に届くのは来年だろう。

 Leica APO-Summicron-M 35mm f/2 ASPHが届いたら、今度は私の手元にある球面ズミルックス(50mm, 35mm)も含めて使うためのLeicaMデジタル機をいよいよ選択して購入する。一番の悩みはカラーの機種かモノクロ専用機か?

Leica M カラー機 v.s. モノクロ機

 今のところ、気持ちはモノクロ専用機に傾いているのだが、今回の森谷さんの著作の68,69.74,75ページの解説や、澤村徹さん著「作品づくりが上達するRAW現像読本」[増補・改訂版]の121〜127ページのレタッチの手法は、デジタルカラー画像よりモノクロ変換するからこそ出来るモノクロ写真の表現方法拡大と言えると思うし、実際自分もNikon Z7IIのカラーで撮ってLightroomによる白黒変換の際にこういった機能を適用することもあるので、現行のLeica M10-R, M11で撮った画像にも色々そうやって調整したらどうなるだろうという興味が湧く。いずれにしても、Leica Store Kyotoからレンズ入荷の連絡が来たら、購入機種を決める。

デジタルによるモノクロづくり

フルデジタル

 この一冊をご覧になった皆さんそれぞれ「モノクロ」に関して色々と思われるところがあると思うけど、私の場合は、この一冊に「京都」が登場することがとにかく嬉しい(さっきも書きましたが….)。しかもLeica で撮られた作品の数々。それらを拝見して、もっと「普段着の京都」を沢山デジタルでも撮ろうという気持ちになってきて、一昨日は錦天満宮近くのいつも所で散髪して、いつもの帰り道で、いつも撮っている場所を、また飽きもせず沢山撮った。でも「モノクロ」を意識すると、いつも見ている景色や「京の風情」が違って見えてくるから、これがまた不思議だ。これだから写真はやめられない。これかももっと沢山撮ろう! 森谷さん、有難う!

散髪の帰り道(京都市街)
一昨日撮影してすぐに帰宅してプリントした
一昨日撮影して、帰宅した後すぐに
Adobe Lightroomで調整後にプリントして楽しんだ

デジタル+銀塩プリント

 今回の森谷さんの著作の88、93ページに登場するピクトリコTPS100は、デジタルネガフィルム。以前からその存在は知っていたのであるが、その使い方について学んだことはないし、どういう具合に仕上がるのかを私が実際に目にしたのは、森谷さんが熊野本宮大社に奉納された荘厳なるプラチナプリントの作品群のみ。

 90〜93ページの解説にあるデジタルネガ+プラチナプリントは、素人の私がそんなこといきなり出来るわけもなく、あまりにもハードルが高すぎる。もし私がやるとしたら、デジタルネガを作成して、これまで慣れ親しんできているバライタ紙への焼き込みだろう。数年前に、大阪のSorarisさんが大阪フィルムフォトウォーク開催中のWSの一つとしてピクトリコの方を招いてこのデジタルネガの使い方に関する講座を用意されたことがあって、私はこれに是非参加したかったのだが、残念ながらその当時は仕事が本当に最高潮に忙しすぎて、貴重な参加の機会を逃してしまった。私は自宅にWet Processでバライタ紙に焼き込む暗室を完備しているので、デジタルネガの作成方法さへ習得出来れば是非とも試してみたいのであるが、趣味とはいえ仕事をしながらここまで手を広げてしまうと、なんかみんなやることが中途半端になりそうなので、いつの日か仕事から完全にリタイヤして、時間的にもっと余裕が出てきたら是非挑戦してみたいと思う。….勤務先の社長からは、「定年はない。好きなだけいつまででも仕事していていいよ」と言われている。正直いまの仕事は大変エキサイティングでとても面白い。ただでさえお金がかかるフィルム写真という道楽趣味。70歳超えても勤務させてもらえそうな感じなのは有難いのであるが、さて、どうしようなかなぁ〜。

森谷修を動かした一枚、一冊、一本

 これまで私は、銀塩やデジタルで撮って作品を作るという趣味を楽しんで来ているが、どちらかと言えば技術的な方向にばかり目が向いて、写真の歴史というものを学んだことがなかった。もっと写真を趣味として楽しむ幅を広げたいと思って、この半年あまり写真学校に所属していたが、その中で一番面白かったのが写真の歴史。写真の歴史を絵画の歴史と並行して学ぶプログラムで、特に中世から印象派の時代の海外の歴史と写真の関わり合いがとても興味深かった。そして今まで名前はなんとか聞いたことがあるというレベルでしかなかったところで、やっと少し有機的に写真家と写真家の関わりや偉大なる写真作品を背景にあるものを、チョビット入口だけ垣間見た思いになった。それを踏まえて、今回の森谷さんの著作の94〜97ページを見て、改めて写真の楽しさと奥深さを感じた思い。

 とはいえ、まだまだ写真の歴史に疎い私。アメリカの著名な写真家の中で、以前から実際にオリジナルプリントを見て知っていたとなると、ユージン・スミス、マイケル・ケンナ、アンセル・アダムスくらい。そしてこの半年間の写真学校の講義で出てきた中では、スタイケン、スティーグリッツ、エドワード・ウェストン、ウィリアム・クライン、ウォーカー・エヴァンス、ダイアン・アーバスなどが印象に残っているのであるが、今回の森谷さんの著作に出てきたサリー・マンの作品は今まで観たことがなかった。写真集やオリジナルプリントを見られる機会があるなら是非にと思う。

 ロバート・メープルソープのことは、2017年に私がHasselblad503CXを手に入れた頃に森谷さんから聞かせて頂いた。森谷さんにとっては、ある意味写真家人生をスタートする原点になったとも言えるくらいにメープルソープの作品との出会いは衝撃だったことが、今回の著作の中でも紹介されている。その年のKyoto Graphieでは、まさにそのロバート・メープルソープのプリントがズラッと並んだかなりの規模の展示があって、森谷さんからも当時観ることを勧められた。自分の自宅から自転車で行ける距離で、偉大なる写真家の作品の数々を観ることが出来るなんて、なんとも贅沢なことだ。実際メープルソープの大きく引き伸ばされたプリントは極めて美しかった。あのトーンの感じは私では一生出せないのではないかと思いつつ、そういう美しさに憧れつつ、自宅でバライタ紙に焼くことを楽しんでいる。

 そして私が個人的にハービー山口さんの写真集の中では一番好きな「代官山17番地」も紹介されている。私は、このハービーさんの写真集を飽きることなく本棚から出して休みの日とかリラックスしたい時に広げて鑑賞する。ハービーさんのモノクロ作品を観ていると、なんかこう心の中でニコニコしてきて、幸せな気持ちになれる。特に「代官山17番地」の中の作品は、もう20年以上前に撮られた筈なのに、どれもこれも何とも言えない瑞々しさに溢れているように私にはいつ観ても感じられる。

新編 代官山17番地 ハービー・山口

 10年以上前に森谷さんのWSに参加して、当時東京の大田区にあった半地下のような暗室でバライタへの焼き込みのアドバイスを貰っていた頃、ハービーさんのことを話されることがあって、そこには常に森谷さんのハービーさんへの尊敬の念と憧れがあったと思う。今回の著作の中で、ハービーさんのこの写真集を「大切なアルバムのように、何度も見返したくなるモノクローム写真集である」と仰っておられ、森谷さんにとって大切な写真集であると知るに至り、私としてもとても嬉しい気持ちにさせて頂いた。

超実践的モノクロワーク

 このブログで自身が撮った作品を載せる時は風景写真を選ぶことが多いけど、実は物(ブツ)撮りも10年以上前から、自宅で楽しむ撮影として継続して取り組んでいる。だから、今回の森谷さんの著作の98〜103ページの内容は、私にとっても興味深々。やっぱりここでもライティングが凄く大事なんだと。私の場合は、あくまで趣味の範囲の撮影なので、プロの皆様がお使いの超高額な照明機材は購入せず、コーナンなどで手に入る本来写真撮影用ではないものを色々活用して自分なりにライティングを工夫して試行錯誤しながら撮っている(それが風景撮影に生きることもある)。ここに出てくる森谷さんの作業の様子はとても参考になる内容ばかりなので、TIPsとして活用させて頂く。そしてこうした撮影も、風景撮影と合わせて、これからも楽しんでいきたい。

中藤毅彦 X 森谷修

 森谷さんのこちらの本には、中藤毅彦さん、ハービー山口さんそれぞれの対談の様子も掲載されている。まずは、中藤毅彦さんとの対談。

 こちらの対談で私が気になったのは、最後に書かれていた「Silver Efex Pro などでレタッチして、粗粒子のモノクロ写真に仕上げる。すると圧倒的な高解像度なのに、激しいノイズがのったモノクロ画像という……」という下り。昨年10月に中藤さんの「エンター・ザ・ミラー」展が奈良市写真美術館で行われた。最近、精華町など京阪奈地区に仕事でいくことが結構あって、タイミングよくこちらの写真展を拝見できた。世界各地の都市をザラッとかつウェットな銀塩の粒子が見え、比較的コントラストが高い作品の数々を拝見して、世界の現地それぞれの人間たちと都市の吐息が伝わってきそうな感じはすごく迫力があった。私が気に入ったのは、まだ今のような先進都市になる前の上海。中藤さんがその写真を撮られたのは、私がまだオランダ、ベルギー、ドイツの国境地帯にあるリンブルグ州で仕事をしていた時期で、リンブルグ州から上海に出張に行くこともあって、その頃の上海の「発展前夜」的なエネルギーがグツグツとあふれ出そうで、色々なモノやコトが渦巻いている都市と人々の粗削りだけどポジティブな熱気が感じれる生の写真という感じがとても好きになった。

 実は中藤さんを一度お見掛けしたことがある。大阪のSorarisさんで開催されたフィルムカメラによる写真展に中藤さんがフラッと入ってこられた。その当時私はアサヒカメラのファーストステップ部門に10年越で毎月ずっと応募を続けていて、中藤さんはファーストステップ部門より一段上(いや、実質2段上だろう)の選者の任についておられたので、なんだか恐縮してしまってとてもお声がけできなかった。次回東京に行く機会があったら、中藤さんが運営されている「ニエプス」にお伺いして、上海を撮られたプリントを購入させて頂くことが出来ないかお聞きしてみたい。あの上海の写真は時期的に考えてフィルムで撮られたのだろう。というのも、今回の対談の中で、愛用されてしたネオパン1600プレストが販売終了してデジタルへの移行は避けて通れないとお考えになられたとあったから。あの時拝見した割合最近の作品群は、レタッチで仕上げられた粗粒子のモノクロであった(???)。

 中藤さんの写真展を観に行ったことには理由がある。それまで私はどちらかといえば、粒子感を抑えて滑らかで柔らかいトーンの写真に仕上げることを好んでバライタに焼き続けていた。それが、昨年の夏にある被写体に出会って、

「これは思い切り粒子感タップリでコントラスト高めで行きたいなぁ〜」

と思った次第。モノクロフィルムで、比較的低感度から高感度のフィルムまで色々試してみたいとおもいつつ、

「デジタルではどうなんだろう?」

と….。兎に角、ザラッとした感じの写真を沢山観られるのではともって奈良にお伺いした次第。

 Silver Efexは、このプラグインがかつて無償で提供されていた時期に、当時使っていたPhotoshop Elements用のプラグインとしてちょっとだけ使ったことがあったが、あまり印象に残っていない。「デジタルで極める完全なるモノクローム」では、84、85ページで森谷さんがSilver Efex Proの紹介をされているので、対談にあった中藤さんのコメントなども参考にしながら、かつLightroomの粒子感を調整する機能なども生かしながら、デジタルでも銀塩でも「粒子を敢えて粗らす」作品作りもこれから試してみたい。まずは、例の昨年出会ったある気になる被写体からである。

ハービー山口 X 森谷修

  ハービー山口さんの写真集や著作は以前から結構色々持っている。モノクロ好きの私としては、最も好きな写真作家のうちのお一人。あのどの作品にも宿る温もり、パッと気持ちが明るくにこやかになる作風。永遠の憧れ….。そのハービーさんと、かつて暗室でのバライタ・モノクロのことを色々教えてくれた森谷さんの対談である。今回の本で最も何度も読み返したところの一つ。

 この対談で印象深かったのは

「….それこそタレントをモノクロで撮るなんてことは許されず….」

という下り。私が本当に写真やカメラが好きになったのはここ15年余り。それ以前は、仕事のことが常に中心にあって、休日はリラックスすること最優先で家でゆっくりしたり家内と旅行に行ったりで、今ほど写真への思い入れはなかった。いまでこそ日本の会社で仕事をしているが、数年前まで大学卒業以来ずっと欧州の会社数社で仕事をしていた。その間、向こうの上司が自宅やレストランに招いてくれて一緒に食事ということがかなりあったが、それぞれの家々やお店には、モノクロの写真がさりげなく絵画など他の芸術作品と同様に日常的に飾られていた。当時は、「アッ、なんか見ていると心地よい写真だなぁ〜」くらいにしか思っていなかったが、写真集やオリジナルプリントを購入するようになった最近になって当時観た写真のことを思い出すと、あれはきっと、ブレッソンやドアノー、マン・レイの作品だったのではとか、当時もっとじっくりと見させてもらえばよかったとか….。ニエプス、タルボット、ダゲール等世界で最初のカメラを発明した欧州では写真と絵画の間で色々あったこともあって、モノクロの写真に触れてきた長い歴史にも裏打ちされ、モノクロ写真が立派な芸術としてしっかりと今も認知されているように思う。日本では、モノクロもカラーも他の芸術と同様に、一般の人たちが「作品」として購入するということは向こうと比べるとあまりないように思う。ハービーさんと森谷さんの対談内容を拝読するにつけ、そのような日本の環境の中で、写真家としての存在感と素晴らしいモノクロ作品群が認知されているお二人は(もちろん日本の多くのモノクロ写真作家の皆さんも)、本当に素晴らしいなぁと思う。

 京都に引っ越して、森谷さんのWSに参加したくてもなかなかそうもいかないという環境になってから暫くして、ヨドバシカメラ京都店の店頭のポスターが目に入った。京都店主催のポートレート撮影講座で、講師のお一人がハービー山口さんだった。もう、見た瞬間から数分後にはレジで申し込み用紙に記入していた。撮影講座は宇治の方の公園で、モデルさんに色々な環境で立ってもらったり座ったり、結構チョコチョコ移動しながらハービーさんが参加者に指導するかたちで行われた。楽しかった。参加者の皆さんが、バズーガー砲のような最新の望遠レンズで参加する中、私只一人がLeicaM3 + 球面Summilux50mm + Delta400Proで参加。大勢の参加者がいる中で私が撮っているところがハービーさんの目に留まり

「おおおお!!!、綺麗なM3だぁーー、君それどうしたの?」

と言って下さって、ほんの一瞬撮影会場で皆から大注目を浴びたが、お答えする間もなくヨドカメの係員の方が

「はいーー、皆さん次はあちらの木陰でモデルさんにポーズつけてもらいますからーー」

と慌ただしく民族大移動が始まってしまい…..。

 その後も、ハービー山口さんが京都に来られて講演されたり写真展をされるときには必ず行かせて頂いている。そろそろまた、自宅近くのLeica Store Kyotoで講演会や写真展をされないかなぁ〜と勝手に楽しみにさせて頂いている。

 ハービー山口さん、森谷さんが、対談の中で”モノクロ”を熱く語り合っている様子を誌上で拝見して、私もお二人のようにモノクロへ親しみを持って愛情を注ぎ続けたいと思った次第。

もっとモノクロを楽しもう

 森谷さんのモノクロ作品ファンの一人として、今回の森谷さんの著作を手にした皆さんが、今までカラーばっかりだったけどモノクロもいいなぁ〜とか、ちょっと私もモノクロで作品作りしてみたいなぁとか、もう一度モノクロの作品づくりを楽しんでみようかなとか思ってくれたら、それは本当に嬉しいこと。

 私は、10年以上前からヤフオクや中古カメラ店の店頭で暗室機材を少しずつ買い揃えて、デジタルカメラでも撮影+プリントと並行して、今でもフィルムカメラで撮って自宅に整備した暗室でバライタ紙に焼くという趣味を続けている。しかし、いまから暗室機材を全部揃えてとなると、モノクロの最初の一歩としてそれは大変すぎる。

 まずは、手持ちのデジカメで撮って自宅にある染料のプリンターでプリントを試してみたり、SDカードはUSBにがずファイルを保存してカメラ店のプリントサービスを利用するというところから十分楽しめると思う。やれるところからやってみて、段々とクォリティや手法を更に追求したくなってきたら、暗室を備えたラボのワークショップに参加して、フィルムカメラの使い方から暗室作業まで一通り教えてもらうのもよいだろうし、デジタル画像からPICTORICO TPS100でデジタルネガを作ってWet Processで印画紙に焼くのもいいと思う。

 皆さんにとって手に入れやすい環境から、出来るカタチから、モノクロを楽しむことを初めてみて頂きたいと思います。