遂に手に入ったLeitz Focomat IIc ( 2c )

 長いこと実用レベルの個体を探し続けていたFocomat IIcがようやく手に入った。Leitz製のValoy II, Focomat Ic, Focomat IIcが私の自宅暗室に揃った。

 今までも、これからも、フィルム写真とデジタル写真ともに楽しんでいきたいと改めて思う。

なかなか入手出来なかった日々

 2009年に、ヤフオクでFuji B690を落札。これが私の自家現像の全ての始まりだった。その後、ValoyIIとFocomat Icを入手。B690も趣味で銀塩写真を楽しむための引伸機としては全く問題はなかった。まだ船橋に住んでいた当時、半蔵門にあるJCIIアカデミーの写真教室で銀塩プリントの講座を受講するかどうか検討していた時、暗室を見学させてもらったのだが、そこにはFocomatと合わせて、Fuji B690が並んでいた。シンプルで使いやすいので初心者でも扱いやすいことの証だ。でも、VaoyIIやFocomat Icでアンチニュートンリンググラスでしっかりフィルムを抑えてフラットに出来るLeitz製の引き伸ばし機のギミックに触れてしまうと、Focomat IIcも欲しくなってしまう。

 しかし、Focomat IIcのよい個体にはこれまでなかなか出会えなかった。切欠は森谷修さんや藤田一咲さん、赤城耕一さんのHasselbladに関する著作と写真を拝見し、Leicaに加えてハッセルも是が非でも欲しくなったから。当時はまだハッセルは持っていなかったけど、すでにFocomat 2Cを探し始めていた。Focomat IIcはValoyやFocomat Icと異なり、ブローニー(120)にも35mm (135)のフィルムにも対応出来るので、購入して暫くの間は、Leica M3, Ricoh GR1VやCanonet QL17 G-III等で撮ったフィルムで引き伸ばし作業をやろうと思っていたから。そして、Hasselblad 503CXを使い始めてからはFocomat IIc探しにより一層熱心になったけど、いやいやなかなか….。

 実用レベルの個体にはなかなか出会えない状態がさらに長く続いた。痛かったのは、数年前に銀一さんが一気にFocomatを放出した時に、気が付かなかったこと。その当時は京都市下京区に住んでいたが、引っ越しの準備を始めて新しい物件探しをしている真っ最中だったので、趣味の写真関連に費やす時間が減っていた時期だった。その機を逃してしまったのは痛かった。もうよい個体のFocomat IIcは一生手に入らないかもしれないと思い始めていた。

予想もしていなかった出会い

 長年探し続けてもなかなか見つからない中、Twitterのアカウントで相互フォローさせてもらっているある人に情報を求めた。ツィートの内容から、昔ながらの暗室での銀塩写真で作品作りをすることにもの凄く拘りを持っている方だと感じていた。実際に会ったことがあるわけではないのに、

 「今すぐに見つかるわけないがないことは十二分に理解しているので、時間が掛かってもよいし、数年後になってもよいので、もしどこかでFocomat IIcの情報を聞いたら教えて欲しいと」

 全く….都合のよい身勝手なお願いだったが、その方は快く応じてくれた。

 そしてしばらくしてから、ある有名な写真家の方がFocomat IIcを売りに出されているとの情報を頂いた。実際に写真家の方と電話でやり取りをさせて頂くことが出来て、現物の写真を送って下さり、購入を決意。ご指定の口座に振り込み。

 驚いたことに、その写真家の方ご自身で私の自宅にまでフォコを持ってきて頂けることになった。私が購入するフォコと入れ替えに、カラーの引伸機を大阪まで取りに行くそのついでだからということだった。

Focomat 2C 支柱の根元

Focomat IIcが自宅に到着

300km以上離れたところから

 写真家の方ご自身の車で私の京都の自宅まで運んで下さるというあり得ないことが現実となった。距離は京都市から富山市まで名神・北陸自動車道で行くくらいに遠い。恐縮至極としか言いようがないくらいに申し訳ないやら有難いやら。

 自宅マンションの駐車場で一緒にフォコを車から降ろして自宅の部屋まで運んだ。とにかくFocomat IIcは恐ろしく重い。

「一人では無理ですよ」

と写真家の方が仰る中、私一人でフォコをひょいと持ち上げて台車に乗せるのを見て少々驚かれていた。ここ最近、仕事でかなり重量のある実験機材を皆で上げ下げすることが多かったので、思いのほか足腰が鍛えらえていたのかも。あるいは、Focomat IIcが手に入ったというあまりの嬉しさに、一瞬だけ爆発的に力が湧いて出てきたのかも(笑)。

超一級の工芸品

 自宅の暗室に、Focomat IIcをセット。写真家の方がこの20年以上お使いなられてきた個体。長い時を経ても本当に綺麗だった。丁寧に使ってこられた証だ。すべてのパーツが頑丈かつ美しい。カメラで撮ってから引伸作業に至る写真作品作りのための全ての道具に対するLeitzのものづくりへの拘りを強く感じる。

Focomat 2C
Focomat IIc ( 2C )

 写真家の方がIIcの使い方を教えて下さった。Focomat IIcの各パーツのギミックにもう感心しきり。改めて本当に購入させてもらって良かったと思えた。

Focomat IcとIIcの違い

コンデンサー

 Icのコンデンサーが掌サイズなのに対して、IIcのは兎に角デカイ直径が10cm以上もある。カビとか発生しないように定期的なメンテはしっかりと行っていきたい。

コンデンサーレンズ
コンデンサー(側面)

 Icはネガキャリアにフィルムをのせて、その上からコンデンサーで直接フィルムを押さえる形態。Icのコンデンサーはフィルムを押さえる面がアンチニュートンリング処理されている場合は、そのままフィルムを押さえても問題なし。処理されていないコンデンサーの場合は、アンチニュートンリングフィルターを付けてフィルムを押さえる( Valoy IIの場合も同様 )。

 一方、Focomat IIcの場合は、巨大なコンデンサーとアンチニュートングラスは別。Focomat IIcのネガキャリアの上面はガラスで覆われていて、そのガラスのフィルムに接する側の表面がアンチニュートンリング処理されている。

レンズ

 Focomat Icは、35mm (135) フィルムのみに対応で、50mmのFocotarを使用するのが一般的。一方、Focomat IIcの場合は35mm (135) フィルムとブローニー (120) フィルムの両方に対応するため、私が写真家の方から譲り受けたFocomat IIcの場合は、60mmのFocotarと100mmのV-Elmarが付いていた。

ネガキャリア

 ネガキャリアは2種類ある。一つは、両面がガラスになっているタイプで6X4.5 〜 6X9のブローニーフィルムのフォーマットと135フィルムにも対応。マスクを入れ替えることで各フォーマットのフィルムに対応する。

 もう一つは、135フィルム専用で、ガラスは上面だけに入っている。

オートフォーカス機構のギミック

 写真家の方にFocomat IIcの使い方を教えて頂いている最中に、

「いや、コレは本当にスゴイ!!」

 と叫んでしまったのが、オートフォーカスの機構。前述の通り、Focomat 2Cの場合は、引伸時に使用するフィルムのフォーマットに合わせて使用するレンズを換える必要がある。レンズの切り替えは、フォーマットを変更するためのつまみがあるので、そこを持って左右にスライドさせることでレンズの切り替えが行える。

 そのスライド機構の左脇にレリーズが付いている。まるでカメラのシャッターボタンに付けつレリーズそっくりでレリーズにスライド機構の金属板の端部が接すると、レリーズケーブルの反対側の端部がオートフォーカスのカムをレンズに合わせて切り替える仕組みになっている。

レリーズケーブル
オートフォーカスカム連動用のレリーズケーブル

 写真家の方が、このFocomat IIcを新品で購入した時は、50万円以上お支払いになったそうだが、リブがしっかり入った太い金属アームや支柱、巨大なコンデンサーにレンズのスライド機構と連動するオートフォーカスのカムなど、手の込んだ機械仕掛けが組み込まれているのを見せられると、新品では確かにそういう価格になってしまうことは理解出来る。

OSRAMの引伸機用の電球

 Focomat IIcの設置が完了して使い方の説明が終わった時、箱を渡された。開けてみると、電球の予備。なんと往年のOSRAM製。持ってきて頂いたFocomat IIc本体に使用中のOSRAMが付いたままだから、合計4個。FUJIの電球や最近のLED電球を使って焼くことも出来るけど、光の均質度合いという点で昔のOSRAMの電球は憧れ。Valoy IIとFocomat Icでもこれらを使おうと思う。

OSRAMの電球(予備)
OSRAMの引伸機用の電球
レトロなパッケージデザインもよい

写真談義

 私の自宅までFocomat IIcを運んできて下さった写真家の方は、すぐに大阪に移動せねばならないということで、非常に残念だったけど、僅かな時間ではあったものの少し写真をお話をさせて頂いた。

 私のモノクロ作品をご覧頂いたり、写真家の方がこれまで撮られてきている写真のことや、これから撮られようとしている作品のことなど、短い時間だったけど本当に楽しかった。

 数年後に、東京で写真展を計画されているとのこと。是非鑑賞させて頂きたい。

デジタルも銀塩も

 そして、Leica Store Kyotoで予約したLeica M11 Monochromがドイツから到着したとの連絡が来た。明日、ご近所の花見小路に出掛けて、M11 Monochrom を購入する。

 銀塩のモノクロは、Leica M3、Hasselblad503CX、 Ricoh GR1V, Canonet QL17 G-IIIで撮って、Leitz製のFocomat IcとIIcやValoy IIで引き伸ばしてバライタ紙にプリントして楽しみ、デジタルのモノクロ作品作りについては、Leica M11 Monochromに従来Leica M3用に使ってきている球面ズミルックス35mm, 50mmを組み合わせて当面楽しみつつ、昨年Leica Store KyotoにオーダーしたAPO Summicron 35mm f/2.0 ASPHの到着を待って、さらに色々なデジタルと銀塩のモノクロ作品作りを楽しみたいと思う。